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東京高等裁判所 平成10年(行コ)104号 判決

千葉県佐倉市新町五〇番地一

控訴人

小澤功子

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被控訴人

国税不服審判所長 太田幸夫

右指定代理人

齋藤紀子

松原行宏

山口久男

加藤昌司

佐藤秀一

主文

控訴人の当審における新たな訴えを却下する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  被控訴人が平成九年一二月一日付けで控訴人に対してした平成八年分の所得税にかかる還付金の充当処分についての審査請求棄却裁決は違法である。(第一審における訴えの取下げ、当審における訴えの変更によるもの)

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一、二項と同旨(第一審における訴えの取下げにつき同意)

第二事案の概要

一  前提事実(3の事実は本件記録上明らかであり、6の事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は乙一、二及び弁論の全趣旨により認められる。)

1  東京国税局長は、平成九年六月一六日付けで、控訴人に対し、控訴人の平成八年分所得税にかかる還付金を昭和六一年六月一一日相続開始にかかる控訴人の相続税の申告分の滞納国税に充当する処分をした。

2  控訴人は、本件充当処分を不服として、平成九年六月一八日付けで、被控訴人に対し審査請求(以下「本件審査請求」という。)をし、被控訴人は、同月一九日これを受理した。

3  控訴人は、被控訴人を被告として、〈1〉平成九年八月二七日、本件審査請求に対して裁決をせよとの訴えを、〈2〉同年一〇月二八日、本件審査請求に対して被控訴人が裁決をしないことが違法であることを確認する旨の訴えを、それぞれ原審裁判所に提起した。

4  被控訴人は、平成九年一二月一日付けで、本件審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件審査請求棄却裁決」という。)をし、同裁決書の謄本は同月三日に控訴人に送達された。

5  控訴人は、原審において、平成九年一二月六日付けの訴え変更申立書をもって、控訴人の従前の訴えを旧民事訴訟法二三二条に基づいて、本件審査請求棄却裁決の取消しを求める訴えに変更する旨申し立てたところ、被控訴人は、右訴えの変更は許されない旨述べた。

原審は、右訴えの変更を許さず、右3の各訴えについては、既に本件審査請求棄却裁決がされ、訴えの利益を欠くことになったとして、これを却下した。

そこで、控訴人は、第一、一、1記載のとおり、当審において、「本件審査請求棄却裁決は違法である。」という訴えに変更し、従前の訴えを取り下げた。

6  もっとも、控訴人は、右5後段の訴えとは別に、本件審査請求棄却裁決の取消しを求める訴え(東京地方裁判所平成平成一〇年(行ウ)第三五号)を提起したところ、平成一〇年五月二七日控訴人敗訴の判決がされたので控訴を提起し、同事件は、現在当庁に係属している(東京高等裁判所平成一〇年(行コ)第一一四号)。

二  控訴人の主張

1  被控訴人は、本件審査請求については、行政事件訴訟法八条二項一号の規定からしても、遅くとも三か月以内に裁決をすべきであった。しかるに、被控訴人が本件審査請求棄却裁決をしたのは審査請求後六か月も経ってからであるから、本件審査棄却裁決は、違法である。

2  原判決は、本件審査請求棄却裁決がされてから訴えの利益を欠くというが、行政事件訴訟法九条により、控訴人には、本件審査請求棄却裁決について違法の確認を求める訴えの利益がある。

3  被控訴人が本件審査請求棄却裁決をしたので、控訴人は、被控訴人に対してした「裁決をせよ」という訴えが不要となり、原審において訴えの変更の申立てをした。このように従前の訴えを裁決取消しの訴えに変更すれば、その請求原因も変更になるのは当然の理である。そのために、原判決のいうように、たとえ請求の基礎に変更を生じたとしても、その責任は被控訴人自身にあるから、訴えの変更申立てを認めないのは失当である。

4  当審における訴えの変更は、前記一、6記載の訴えとは別箇の訴えであり、かつ、右3からも明らかなように、被控訴人自身の責任によって生じた事態であるから、二重起訴に当たらない。

三  被控訴人の主張

1  当審における新たな訴えが本件審査請求棄却裁決の取消しを求める趣旨であったとしても、右の新たな訴えにかかる請求と従前の訴えにかかる請求との間では請求の基礎が変更されるから、右の訴えの変更は許されない。

2  控訴人は、本件審査請求棄却裁決の取消しを求めて別途訴えを提起し、右訴えは現に東京高等裁判所に係属中であるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一四二条により禁止された二重起訴に該当し許されない。

第三当裁判所の判断

一  控訴人は、当審において、第一審における訴えを「本件審査請求棄却裁決は違法である。」という訴えに変更し、提起した。

そして、右の訴えにおいて本件審査請求棄却裁決を「違法である。」とする主体は裁判所であると解されるところ、裁判所が本件審査請求棄却裁決を「違法である。」と判断した場合には、本件審査請求棄却裁決を取り消すべきことは、行政事件訴訟法三条三項、一〇条一項、二項の規定に照らし明らかであるから、結局、右の訴えは、本件審査請求棄却裁決の取消しの訴えであると解するほかない(控訴人が訴えの変更の申立てをしていることにかんがみると、右の訴えが不作為の違法確認の訴えであると解する余地はない。)。

しかるに、控訴人は、前記一、6において認定したとおり、右の訴えと同一の別箇の訴えを提起しており、その訴えは現に東京高等裁判所に係属中であるから、控訴人が当裁判所において変更し提起した訴えは、二重起訴となり、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一四二条により、不適法として、却下を免れない。

二  よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一〇月二七日)

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 岩井俊 裁判官 小圷眞史)

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